障害とは何か 戦力ならざる者の戦争と福祉
現在の身体障害者手帳の障害種別と等級を表にした「身体障害者障害程度等級表」(身体障害者福祉法施行規則別表第五号)の変遷をさぐると、身体障害者福祉法は傷痍軍人に対する援助がルーツであるという見方は誤りではないとしても、兵役法と朝鮮人、戦争と戦時下の労災補償などを考察すると、さらに奥が深いことがよくわかる。
国策としての戦争に役に立たなければ非国民という考えかただけではなく、そもそも「戦争にとって人的資源確保たりえる存在にはできるだけその保全・培養のため社会政策を活用するが、はじめから人的資源としてふさわしくないとした人間には、出生そのものの抑制を目指し、国家が直接その出征にかいにゅうする仕組みを導入していったプロセス」(P.65)があって、そのプロセスの結果として国民体力法と国民優生法があることを、あらためて確認できる。
本書を簡単にまとめることは難しいが、徴兵制と障害の排除、恩給と障害保障、「産業戦士」と障害保障など、政策目的によってさまざまな対応が行われてきて、戦後の身体障害者福祉法に至り、そのなかにそれまでの「障害者」像が盛り込まれているということになろうか。
そして、戦力にあらざれば人として認められないという考え方があったことを知ると、「生産性」を価値基軸とする考え方を、国会議員の地位にある者が公然と主張し続けていることに、暗然たる思いがする。
もともとが博士論文であったことから、記述はいわゆる論文形式であり、決して読みやすいとはいえない。
身体障害者障害程度等級表
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1027-11d.pdf
京都新聞で紹介。
https://www.hanazono.ac.jp/news/education/psychology/000596.html
はしがき
初出一覧
第1章 軍事政策における障害
はじめに
1 徴兵制と障害
2 徴兵制の確立と障害
3 兵役法下における障害
4 除役と障害
5 軍人恩給と障害
おわりに
第2章 戦時政策における障害
はじめに
1 国民体力の低下
2 農村の疲弊
3 結核と障害
4 人口政策と保健国策
5 虚弱児問題と国民体力法
6 国民体力法と国民優生法
おわりに
第3章 社会政策における障害
はじめに
1 医療保険と障害
2 年金保険制度成立への助走
3 労働者年金保険法の制定
4 年金保険制度における障害
5 障害年金がつくられたねらいとは
おわりに
第4章 障害者福祉における障害
はじめに
1 戦後の社会福祉改革
2 傷痍者保護対策
3 身体障害者福祉法の成立
4 身体障害者福祉法は元傷痍軍人対策か
5 身体障害者福祉法における障害とは
おわりに
第5章 障害概念はどこから来たか
はじめに
1 身体障害者福祉法の障害概念
2 等級表の登場
3 等級表はどこから来たか
4 等級表の比較検証
5 等級表の特徴とは
6 等級表のその後
おわりに
第6章 戦争と障害
はじめに
1 排除対象としての障害
2 保障対象としての障害
3 社会政策的障害観
4 障害原因による差別化
5 生存権にとっての障害
6 戦争と障害者観
おわりに
あとがき
巻末資料1 陸軍身体検査における体格等位基準
巻末資料2 身体障害者福祉法等級表案と厚生年金保険法労働者災害補償保険法恩給法の等級表との比較
巻末資料3 関係法による対象規定の比較分析
藤井渉/著
法律文化社
https://www.hou-bun.com/cgi-bin/search/detail.cgi?c=ISBN978-4-589-03845-6
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