白い病
2020年、緊急事態宣言下で訳された、岩波文庫版である。
解説によれば、1992年、2008年にも邦訳は出ているのだが、ここでの刊行は、コロナと政府と群衆とになぞらえて読むことになる(あるいは、合衆国を思い浮かべながら読む)という意味では、時宜をとらえた刊行だろう。
「白い病」が中国発であること(P.36)、そして、娘の、今の若者にはチャンスがない、この世の中に十分な場所がない、若者がどうにか暮らして、家族をもてるようになるには、何かが起きないとだめ、といった言葉(P.39)は、チャペックの作品とわからなければ、現代を描いた戯曲だと思ってしまうだろう。
しかし、チャペックの執筆による発表は1937年、執筆当時のチャペックが、50歳以上の者が罹患し死に至る「白い病」、独裁者や枢密顧問官、ガレーン博士、群衆、そして理性的な若い男女で表現したかったものは、何だったのだろうか。
また、ガレーン博士のとった手段については、この戯曲を文字どおりに読んだのであれば、賛否のあるところだろう。
だが、「核兵器」だとか「長距離ミサイル」、「抑止力」だとかは、ガレーン博士とは逆の立場での「脅迫」であり、その「脅迫」がこの世の中にまかりとおっていることを思い浮かべながら読むこともできる。
第一幕 枢密顧問官
第二幕 クリューク男爵
第三幕 元帥
付録
前書き
作者による解題
解説
カレル・チャペック/著
阿部賢一/訳
岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b515909.html
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