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2020年10月10日 (土)

戦争は女の顔をしていない

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多くの女性が前線に行っていたことは、「英雄譚」としては、フィクション・ノンフィクションにかかわらずこれまでもさまざまな媒体で示されていたのだが、そうした「英雄譚」ではない、一人の人としての視点で自分のまわりに起きたできごとを語ることが戦後はタブーとされていたことは、戦後の帰還兵たちの処遇と同じように、文中にもあったが「スターリンは人々を信用していなかった」ということだろう。
「国家」に役立つ「体験談」だけが許された時代、社会主義革命後のソ連でも、旧来のジェンダー構造が連綿と続いていたことが示される。
また、本書に出てくる人たちの周囲の男の兵士たちの姿は、一方では占領地での占領軍兵士たちでもあったわけで、その落差は何なのだろう。
本書の証言にも出てくるが、その証言は「私自身だって、奴らが痛い目に遭えばいいと思っていたわ・・・」と、「ドイツ憎し」。
そこまでの思いをもたらしたドイツの侵攻だったのだろうし、「大祖国戦争」的なナショナリズムによるものだったのかもしれない。
逆に、ジレンマを抱えながらドイツ兵の命を救った証言もある。
下部構造が変わってもあらたな上部構造は一朝一夕にはつくられていかないのか、下部構造は変わっていなかったのか、なんてことも考えてしまう。
証言のなかには、「ソ連」やスターリンを信じ続けている人たちがいるし、批判を声に出す人たちもいる。
長年にわたる証言の集積だから、時代とともに雰囲気は変わったのかもしれない。
負の歴史を表にだすことを嫌うひとたち、ベラルーシ大統領もそのひとりだが、日本でも同じように負の歴史は隠しておきたいひとたちが多いようだ。

男の兵士たちであっても、日常に目を向けていた人はいたと思うのだが、やはり「沽券」に支配されて今うのだろうか。

P.114で、ウィーンまで来た人の話が出てくる。
その時に行った動物園は、シェーンブルン動物園だったのだろうな。

原題は、「У войны не женское лицо」。
1983年に書かれ、1984年に雑誌「10月」に最初に掲載され、雑誌「ネマン」にさらにいくつかの章が掲載されたが、検閲官によって、あるいは著者自身によっていくつかの回想録は削除された。
ペレストロイカ後1985年に刊行、邦訳は2008年、著者のノーベル文学賞受賞は、2015年。
元の出版社の版権が消失したが、2016年現代文庫から刊行された。
http://www.gunzosha.com/20151021message.html
2019年から「ComicWalker」で漫画化され連載、単行本も出た。
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM00000019010000_68/

人間は戦争よりずっと大きい(執筆日誌一九七八年から一九八五年より)
思い出したくない
お嬢ちゃんたち、まだねんねじゃないか
恐怖の臭いと鞄いっぱいのチョコレート菓子
しきたりと生活
母のところに戻ったのはわたし一人だけ……
わが家には二つの戦争が同居してるの
受話器は弾丸を発しない
私たちの褒美は小さなメダルだった
お人形とライフル
死について、そして死を前にしたときの驚きについて
馬や小鳥たちの思い出
あれは私じゃないわ
あの目を今でも憶えています……
私たちは銃を撃ってたんじゃない
特別な石けん「K」と営倉について
焼き付いた軸受けメタルとロシア式の汚い言葉のこと
兵隊であることが求められたけれど、かわいい女の子でもいたかった
甲高い乙女の「ソプラノ」と水兵の迷信
工兵小隊長ってものは二ヶ月しか生きていられないんですよ、お嬢さん方!
いまいましい女と五月のバラの花
空を前にした時の不思議な静けさと失われた指輪のこと
人間の孤独と弾丸
家畜のエサにしかならないこまっかいクズジャガイモまでだしてくれた
お母ちゃんお父ちゃんのこと
ちっぽけな人生と大きな理念について
子供の入浴とお父さんのようなお母さんについて
赤ずきんちゃんのこと、戦地で猫が見つかる喜びのこと
ひそひそ声と叫び声
その人は心臓のあたりに手をあてて……
間違いだらけの作文とコメディー映画のこと
ふと、生きていたいと猛烈に思った
訳者あとがき
解説 著者と訳者のこと 澤地久枝

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(Святла́на Алякса́ндраўна Алексіе́віч)/著
三浦みどり/訳
岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b256544.html

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