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2019年12月17日 (火)

聖なる酔っぱらいの伝説

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「蜘蛛の巣」、「四月、ある愛の物語」、「ファルメライヤー駅長」、「皇帝の胸像」、そして「聖なる酔っぱらいの伝説」を収録。

「蜘蛛の巣」は、戦間期に反ユダヤ運動に入り込む、第一次世界大戦に出征し大尉まで昇進したテオドール・ローゼがいかに「反ユダヤ」に取り込まれていったか、あるいは「反ユダヤ」を利用したかの話が展開する。
「指導者になりたい」青年テオドールが参加した組織の党歌は、
 裏切り者は血でつぐなう
 ユダヤの血をしぼりとれ
 おお、世界に冠たるドイツよ
そこに加わっているほとんどの者たちは、意識的に「反ユダヤ」であるわけではなく、扇動されての「反ユダヤ」であり、扇動に使われる材料は、は正しいか正しくないかは関係がないし、捏造も行われている。
読んでいると、いまのこの日本の歩んでいる道と重なってしまう。
「蜘蛛の巣」は1923年10月7日から11月6日までウィーンの社民党の新聞「アルバイター・ツァイティング」に連載されたが、ミュンヘン一揆が起きたのは、連載終了直後の11月8日から9日であった。

「四月、ある愛の物語」と「ファルメライヤー駅長」は、戦間期の風俗を描き、いずれも旅立つ結末にかかわらず、どこかホッとさせるものがある。

「皇帝の胸像」は、「ラデツキー行進曲」と対になっていると考えていいのかもしれない。
君主国が、多民族からなる「ヨーロッパのミニアチュール」だったとしても、君主国が民族自決を抑圧していたことは確かなわけで、民族自決を経てあとに『あなたはそもそも「何国人」であって、どの民族に属すると考えるか』の質問が、ヨーロッパに限らずどこでも無意味なものになるといいのだが。

「聖なる酔っぱらいの伝説」、「わらしべ長者」のような趣であるが、これはロート自身の姿でもあるようだ。
ロートは、本作品を書き上げてまもなく亡くなる。

池内さんの訳が、作品の中に引き込ませてくれる。

ヨーゼフ・ロートについては、「ラデツキー行進曲」に書いた。
http://m-kusunoki.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-751d.html
http://m-kusunoki.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-4c9d.html

ヨーゼフ・ロート/著
池内紀/訳
岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b247819.html

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