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2019年10月18日 (金)

戒厳令

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1978年の刊行であるが、台風15号や19号での政府の動き、あいちトリエンナーレをめぐる動きなどを見ていると、2014年7月1日の「国の存立を全うし、国民を守るための.切れ目のない安全保障法制の整備について」の閣議決定以後、この国は権力の恣意的な運用が目につく。
2014年7月1日は、日本国憲法を停止せしめる事実上のクーデターが起きた日であると考えていたのだが、「クーデター」「戒厳令」をおさえておこう。
緻密な内容の本書を簡単にはまとめることはできないが、「戒厳令」をめぐっては、二・二六事件以降は当初の「戒厳令」の趣旨から大きく逸脱し、明治憲法の規定にも逸脱するような運用を恣意的に行い、「軍ファシズムの成立」さらに「日本ファシズムの成立」へと連なっていったことが理解できる。
本書刊行の時期は、1977年の三原防衛庁長官の指示による「有事法制の研究」と重なっているのだが、「戒厳立法の研究は、現在でも、国民の目のとどかないところで、着々とすすめられてると考えてよい」との著者が指摘(P.213)は、今だからこそもう一度おさえておくべきだろう。

そしてもうひとつおさえておくべきは、P.203以降の治安出動における自衛隊の武器使用の基準で、自衛隊法に規定されているのだが、戦前の衛戍勤務令(明治43年3月18日軍令陸第3号)第一二での正当防衛での武器使用に限定していたものから拡大されているとの指摘であろう。

自衛隊法
第九十条 第七十八条第一項又は第八十一条第二項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の自衛官は、前条の規定により武器を使用する場合のほか、次の各号の一に該当すると認める相当の理由があるときは、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。
一 職務上警護する人、施設又は物件が暴行又は侵害を受け、又は受けようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合
二 多衆集合して暴行若しくは脅迫をし、又は暴行若しくは脅迫をしようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合
三 前号に掲げる場合のほか、小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持し、又は所持していると疑うに足りる相当の理由のある者が暴行又は脅迫をし又はする高い蓋がい然性があり、武器を使用するほか、他にこれを鎮圧し、又は防止する適当な手段がない場合
2 前条第二項の規定は、前項の場合について準用する。

60年安保や70年安保のような治安の理由による出動は、為政者にとっても躊躇わせしめるものがあったようだが、いまは当然視されている60年安保や70年安保のような治安の理由による出動は、為政者にとっても躊躇わせしめるものがあったようだが、いまは当然視されている災害救助を理由とした出動から憲法への「緊急事態」盛り込み、そして「治安」出動へは、おそらくほとんど抵抗なしに進むのではないだろうか。

1882年:太政官布告第三十六号戒嚴令
1889年:大日本帝国憲法
第八条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
2 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
○行政戒厳→二・二六事件
第十四条 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
○軍事戒厳→日清戦争、日露戦争で7回、以後なし。
第三十一条 本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ
○行政戒厳→日比谷焼打事件、関東大震災、二・二六事件の3回。
○二・二六事件で設置された関東戒厳司令部は戒厳解止とともに廃止されたが、東京警備司令部が設置され常設となった。
第七十六条第一項 法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス
○太政官布告第三十六号戒嚴令を、法律に相当する効力を有するものとした
戒厳令実行ニ関スル大方針(日露戦争時):戒厳令を「非常事態における非常権の限界を示した法令」(立法趣旨、元老院会議での提案理由説明)から「事実上の非常権無制限」(P.98)とした。

「おわりに」で紹介されている警察法第七十一条と自衛隊法第七十八条以下を、以下に示しておく。
警察法
第七十一条 内閣総理大臣は、大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して、治安の維持のため特に必要があると認めるときは、国家公安委員会の勧告に基き、全国又は一部の区域について緊急事態の布告を発することができる。
2 前項の布告には、その区域、事態の概要及び布告の効力を発する日時を記載しなければならない。

自衛隊法
第七十八条 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
2 内閣総理大臣は、前項の規定による出動を命じた場合には、出動を命じた日から二十日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又は出動の必要がなくなつたときは、すみやかに、自衛隊の撤収を命じなければならない。
(治安出動待機命令)
第七十九条 防衛大臣は、事態が緊迫し、前条第一項の規定による治安出動命令が発せられることが予測される場合において、これに対処するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる。
2 前項の場合においては、防衛大臣は、国家公安委員会と緊密な連絡を保つものとする。
(治安出動下令前に行う情報収集)
第七十九条の二 防衛大臣は、事態が緊迫し第七十八条第一項の規定による治安出動命令が発せられること及び小銃、機関銃(機関けん銃を含む。)、砲、化学兵器、生物兵器その他その殺傷力がこれらに類する武器を所持した者による不法行為が行われることが予測される場合において、当該事態の状況の把握に資する情報の収集を行うため特別の必要があると認めるときは、国家公安委員会と協議の上、内閣総理大臣の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊に当該者が所在すると見込まれる場所及びその近傍において当該情報の収集を行うことを命ずることができる。
(海上保安庁の統制)
第八十条 (略)
(要請による治安出動)
第八十一条 都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。
2 内閣総理大臣は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。
3 都道府県知事は、事態が収まり、部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、内閣総理大臣に対し、すみやかに、部隊等の撤収を要請しなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の要請があつた場合又は部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、すみやかに、部隊等の撤収を命じなければならない。
5 都道府県知事は、第一項に規定する要請をした場合には、事態が収つた後、すみやかに、その旨を当該都道府県の議会に報告しなければならない。
6 第一項及び第三項に規定する要請の手続は、政令で定める。

そして、自由民主党の「日本国憲法改正草案」。
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

自民党大会で示された改憲4項目のうちの緊急事態条項。
第64条の2 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
第73条の2 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
2 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

「戒嚴令」の全文。
戒嚴令
第一條 戒嚴令ハ戦時若クハ事變ニ際シ兵備ヲ以テ全國若クハ一地方ヲ警戒スルノ法トス
第二條 戒嚴ハ臨戦地境ト合圍地境トノ二種ニ分ツ
 第一 臨戦地境ハ戦時若クハ事變ニ際シ警戒ス可キ地方ヲ區畫シテ臨戦ノ區域ト爲ス者ナリ
 第二 合圍地境ハ敵ノ合圍若クハ攻撃其他ノ事變ニ際シ警戒ス可キ地方ヲ區畫シテ合圍ノ區域ト爲ス者ナリ
第三條 戒嚴ハ時機ニ應シ其要ス可キ地境ヲ區畫シテ之ヲ布告ス
第四條 戦時ニ際シ鎭臺營所要塞海軍港鎭守府海軍造船所等遽カニ合圍若クハ攻撃ヲ受クル時ハ其地ノ司令官臨時戒嚴ヲ宣告スルヿヲ得又戦略上臨機ノ處分ヲ要スル時ハ出征ノ司令官之ヲ宣告スルヿヲ得
第五條 平時土寇ヲ鎭定スル爲メ臨時戒嚴ヲ要スル場合ニ於テハ其地ノ司令官速カニ上奏シテ命ヲ請フ可シ若シ時機切迫シテ通信斷絶シ命ヲ請フノ道ナキ時ハ直ニ戒嚴ヲ宣告スルヿヲ得
第六條 軍團長師團長旅團長鎭臺營所要塞司令官或ハ艦隊司令長官艦隊司令官鎭守府長官若クハ特命司令官ハ戒嚴ヲ宣告シ得ルノ權アル司令官トス
第七條 戒嚴ノ宣告ヲ爲シタル時ハ直チニ其状勢及ヒ事由ヲ具シテ之ヲ太政官ニ上申ス可シ
 但其隷属スル所ノ長官ニハ別ニ之ヲ具申ス可シ
第八條 戒嚴ノ宣告ハ曩ニ布告シタル所ノ臨戦若クハ合圍地境ノ區畫ヲ改定スルヿヲ得
第九條 臨戦地境内ニ於テハ地方行政事務及ヒ司法事務ノ軍事ニ關係アル事件ヲ限リ其地ノ司令官ニ管掌ノ權ヲ委スル者トス故ニ地方官地方裁判官及ヒ檢察官ハ其戒嚴ノ布告若クハ宣告アル時ハ速カニ該司令官ニ就テ其指揮ヲ請フ可シ
第十條 合圍地境内ニ於テハ地方行政事務及ヒ司法事務ハ其地ノ司令官ニ管掌ノ權ヲ委スル者トス故ニ地方官地方裁判官及ヒ檢察官ハ其戒嚴ノ布告若クハ宣告アル時ハ速カニ該司令官ニ就テ其指揮ヲ請フ可シ
第十一條 合圍地境内ニ於テハ軍事ニ係ル民事及ヒ左ニ開列スル犯罪ニ係ル者ハ總テ軍衙ニ於テ裁判ス
 刑法
  第二編
   第一章 皇室ニ對スル罪
   第二章 國事ニ對スル罪
   第三章 静謐ヲ害スル罪
   第四章 信用ヲ害スル罪
   第九章 官吏瀆職ノ罪
  第三編
   第一章
    第一節 謀殺故殺ノ罪
    第二節 殴打創傷ノ罪
    第六節 擅ニ人ヲ逮捕監禁スル罪
    第七節 脅迫ノ罪
   第二章
    第二節 強盗ノ罪
    第七節 放火失火ノ罪
    第八節 決水ノ罪
    第九節 船舶ヲ覆没スル罪
    第十節 家屋物品ヲ毀壊シ及ヒ動植物ヲ害スル罪
第十二條 合圍地境内ニ裁判所ナク又其管轄裁判所ト通路斷絶セシ時ハ民事刑事ノ別ナク總テ軍衙ノ裁判ニ屬ス
第十三條 合圍地境内ニ於ケル軍衙ノ裁判ニ對シテハ控訴上告ヲ爲スヿヲ得ス
第十四條 戒嚴地境内ニ於ケル司令官左ニ記列ノ諸件ヲ執行スルノ權ヲ有ス但其執行ヨリ生スル損害ハ要償スルヿヲ得ス
 第一 集會若クハ新聞雑誌廣告等ノ時勢ニ妨害アリト認ムル者ヲ停止スルヿ
 第二 軍需ニ供ス可キ民有ノ諸物品ヲ調査シ又ハ時機ニ依リ其輸出ヲ禁止スルヿ
 第三 銃砲弾藥兵器火具其他危險ニ渉ル諸物品ヲ所有スル者アル時ハ之ヲ檢査シ時期ニ依リ押収スルヿ
 第四 郵信電報ヲ開緘シ出入ノ船舶及ヒ諸物品ヲ檢査シ竝ニ陸海通路ヲ停止スルヿ
 第五 戦状ニ依リ止ムヲ得サル場合ニ於テハ人民ノ動産不動産ヲ破壊燬焼スルヿ
 第六 合圍地境内ニ於テハ晝夜ノ別ナク人民ノ家屋建造物船舶中ニ立入リ檢察スルヿ
 第七 合圍地境内ニ寄宿スル者アル時ハ時機ニ依リ其地ヲ退去セシムルヿ
 第十五條 戒嚴ハ平定ノ後ト雖モ解止ノ布告若クハ宣告ヲ受クルノ日迄ハ其効力ヲ有スル者トス
第十六條 戒嚴解止ノ日ヨリ地方行政事務司法事務及ヒ裁判權ハ總テ其常例ニ復ス

まえがき
はじめに
I 戒厳令とは何か
II 軍事立法としての日本の戒厳令
III 日本における戒厳令の発動
IV クーデターの手段としての戒厳令—二・二六事件—
おわりに—自衛隊の戦時立法研究と戒厳令—

大江志乃夫
岩波書店
https://www.iwanami.co.jp/book/b267509.html


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