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2017年12月10日 (日)

ソビエト連邦史 1917-1991

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2017年はロシア革命100年、ソ連崩壊から四半世紀余りの年である。
ということで、本書を手に取った。
本書は、「モロトフ回想にいわば批判的注をつけるといったかたちで、この二〇世紀、いな二〇世紀に生きた「一九世紀的人物」と自称した人物からみたソ連を明らかにしたい」(P.16)と著者が記しているように、ヴャチェスラフ・ミハイロヴィチ・モロトフ(本名はヴャチェスラフ・ミハイロヴィチ・スクリャービン、1890年3月9日~1986年11月8日)を軸としたソ連邦史である。
モロトフといえば、「モロトフ・リッペントロップ協定」や「モロトフ・カクテル」「日ソ中立条約」を思い浮かべてしまい、首相兼外相としてスターリンの片腕たる人物とされるが、実際にどのような人物だったのかは、あまり知ることもなかった。
そして、本書のもうひとつの軸として、ロシア正教からは異端派とされる「古儀式派」に着目する。
筆者は、「そもそも労働者がせいぜい人口の二パーセント程度とされるロシアでどうして「労働者」の革命が起きたのか? そして七四年後に崩壊したのか? ロシア革命とソ連史のこの最大の謎も、それを解く鍵も古儀式派にありそうだ、というのが革命一〇〇年にして筆者が考える新解釈である」(P.18)と提起し、農民と結びついたロシア革命を、P.41の労働者革命ではなく、農民出身の兵士の反戦気分が革命へ結びついたこと、P.45で、「ソビエト」は伝統的農村の自治機関が変容したものとし、「古儀式派」と結びつけて考察することで、一定の説得力はある。
しかし、権力の座に着いた後の体制は農民を抑圧することになるのだが、この変化に「古儀式派」の影響があったのかなかったのかはわからない。
事象は並んでいるが、その事象のその時点での経済的状況や社会的国際的な背景などとの関係を論考するところまではいっていないのである。
また、否定的に評価できる事例は多いが、肯定的に評価できる事例がほとんど出てこないし、ソ連で暮らしていた一般の人々も、「数」以外には出てこない。

つまり、本書は「モロトフ伝」ではあっても、タイトルのような「ソビエト連邦史」ではなく、むしろ「ソビエト共産党政治局史」なのだ。
「モロトフ伝」であるとしても、筆者が提起した謎を解く鍵としての「古儀式派」とモロトフとの関係は、モロトフの出身地が「古儀式派」の地であったことが、また、取り上げられる人物が「古儀式派」に属すると指摘しても、「古儀式派」であることがその人物の思想や政治的なスタンス、あるいは政策にどのように結びついたのかは、本書では掘り下げていない。
そして、「古儀式派」がロシアで革命後もなぜ生き続けたのか、「人脈」だけではないだろうが、「古儀式派」の考え方とボリシェビキの考え方の結びつき、人々の「古儀式派」やボリシェビキに対する認識がどうだったのかは、明らかではない。
一例として、P.180に次のような文章がある。
「一九四七年秋以降、スターリンは後任の首相をブルガーニンにしようとした。彼はニジニ・ノブゴロド出で、古儀式派系だったので適任に見えた。」
なぜ古儀式派系であることでスターリンには適任に見えたのかのか、その説明がないのである。
その意味では、ソ連邦の歴史をモロトフと古儀式派を軸として描いたときにどのように新たな評価となるのかは、本書だけでは判然としない。
加えて、ソ連邦の指導部にいた人たちが、情勢とはかかわりなくあたかも恣意的に政治を社会を動かしていたような印象を持ってしまうことで、あちらこちらに出てくる「古儀式派」の記述は、あたかもユダヤ人陰謀説、フリーメイソン陰謀説を想像してしまう。

日本との関係で言えば、シベリア出兵に関する記述はない。
そして、本書で紹介されているゴルバチョフの、「一七年革命が、二月民主主義革命の段階でとどまっていればよかった」(P.39)は、ロシア革命の評価の一つだろう。
同時に、問題提起でもあるだろう。

序章 党が国家であった世紀
人名解説
第一章 ロシア革命とボリシェビク
第二章 共産党とアパラチク(機関専従員)
第三章 ネップ(新経済政策)とアンチ・ルイノチニク(反市場主義)
第四章 スターリン体制とスターリニスト
第五章 世界大戦とナルコミンデル(外務人民委員)
第六章 冷戦とデルジャブニク(大国主義者)
第七章 非スターリン化とドグマチーク(教条主義者)
第八章 「停滞の時代」のなかのペンシオネール(年金生活者)
終章 モロトフとソ連崩壊
引用・参考文献
あとがき
学術文庫版への追記
索引

下斗米伸夫/著
講談社学術文庫

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