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2016年3月17日 (木)

安保法制の何が問題か

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あの歴史的な日からまもなく半年、「安保法制」は、この3月29日にも施行されようとしている。
そしていま、日本国憲法を誇りある憲法であると考えることのできない内閣総理大臣が、こともあろうに「憲法改正」を夏の参議院選挙の争点にしようと声に出している。
むろん、「改正」そのものを封印しようとは思わない。
しかし、これまでの経過を見ると、9条を改正したい→改正要件が難しそうだ→96条を改正したい→反発が大きいぞ→解釈を変更してしまえ、このような、憲法をないがしろにしてきた内閣総理大臣のとってきた手法や、さらに、憲法改正の声の背景にある政権党による憲法草案の、民主主義を勝ち取ってきた人間の歴史にたいする逆行ともいえる条文の数々をみる限り、この内閣総理大臣の「改正」の念頭にあるものに疑念を抱かざるを得ないのである。
さらに、本来は政府をチェックすべき役割を持つマスコミなどの首脳に「お友だち」を任用し、外部からのチェック、コントロールを有名無実化する手法は、「お友だち独裁」と言われてもしあkたがあるまい。

本書では、安全保障に関しては本書に加わった人たちはそれぞれの考え方を保持しながら、一昨年の解釈や昨年の「安保法制」成立については違憲であるという考え方にたって、さまざまな側面からその違憲性を解き明かしている。
すべての稿ではないが、各稿に「ポイント」があるので、課題を整理する手助けになる。
それにしても、「国民の命と暮らしに責任を持つのは憲法学者ではない。政治家が国民の命と暮らしに責任を持たなければならない。」という発言は、だから憲法の枠組みを超えていいということにはならず、憲法学者たちの指摘に応えられないので排除するしかない、と言うことを意味しているとしか思えない。
意味といえば、最上敏樹氏の「国際法は錦の御旗ではない」を読むと、国会で使われた「集団的自衛権」の使い方の欺瞞性が明確に表れてくる。
そして本書は、いつのまにか安保法制をすすめようとした側の用語の使い方を前提としてしまっている自分の誤り(たとえば「集団的自衛権」の定義や行使要件は国連憲章第51条でもなされていないことや、これまでこうしされた「集団的自衛権」は必ずしも肯定されるものではないことなど)を、気付かさせてくれる。
さらに、「国民もしくは大本の規範は動かないまま、現在の政府から過去の政府に向けて、政府レベルで法秩序の連続性の破壊が起こされた場合を、法学的にはクーデターと呼ぶことができ」、「国民に信を問うことなく、閣議決定により一方的に、それまで日本の国是であったといってよい部分において法的連続性を切断してしま」った「七・一の出来事はクーデターです。」(P.217~218「非立憲」政権によるクーデターが起きた/石川健治)との指摘は、記憶しておくべき指摘である。、
その意味で本書は、3月29日の「安保法制」施行を目前にしたいま、あらためて確認すべき多くの内容を持っている。

幾つかの注目すべき記述、ほんの一部だが。
・憲法学者たちが抱いている“違憲”の意味にはおそらく次の二つがある。※まず、違憲な法令を制定する等、憲法に違反する国家行為を行ったという意味での違憲であり、(中略)※もうひとつは、政府が立憲主義に反する姿勢を取っているという意味でのそれである。(P.23~P.24、「安保法案と“九条の環”」/駒村圭吾、原文の改行は削除し※で表示した。)
・自民党改憲案が成立すると現行憲法にあった幾つかの言葉がなくなる。その代表例が「人類」「普遍」「原理」の三語である。(中略)自民党改憲案ではこれらの言葉が消え去った後に、その前文で「長い歴史」「固有の文化」「良き伝統」「美しい国土」が挿入される。近代の理念表象が消え去って、我が国固有の物語が挿入される。(中略)今この緊張した時期になぜ近代の普遍原理を捨て、自国固有の文化に閉じこもる道を選ぶのだろうか。(P.28~P.29、同上)
・集団的自衛権のやみくもな追求は、国内的に立憲主義の破壊であるだけでなく、国際立憲主義への挑戦でもある。この国が一九四五年に瓦礫の中でめざした国際国家像は、もっと前向きなものだったのではないだろうか。七〇年経ってそれを捨て去ることに合理的な理由があるようには思われない。(P.112、「国際法は錦の御旗ではない」/最上敏樹)
・安全保障の道具立てが抑止だけしかないように語られる中で、安心供与という、もう一つの道具立てがあると考えた時に、今政府が提案している安保法制は本当に日本の安全に資するのかという批判を、安全保障のロジックを使って展開することができる。(P.141、「座談会 安保法制は日本の安全保障につながるか」)
・有事に至ってしまった際にどうするのかを議論しているに過ぎず、安全保障政策における優先事項である、どのように有事に至らないようにするのか、という議論が欠如している。(P.165、「集団的自衛権の抑止力について」/栗崎周平)
・集団的自衛権の行使解禁を言い出した安倍首相が過去の国会審議を無視して、まず憲法違反の疑いが濃厚な「武力行使の三要件」(新三要件)を閣議決定してしまい、安保関連法案はこの新三要件に合致しているから合憲と主張している。勝手にルールを変え、そのルール通りだから問題ないというのは自作自演の茶番劇というほかない。(P.190、立法事実なき安保法制/半田滋)
・集団的自衛権は、特定の仮想敵を念頭に置いて同盟を組み、その抑止力によって戦争を防ぐ、かつての同盟政策の末裔」で「比較的長期の平和をヨーロッパにもたらした」が、「常に仮想敵を想定する同盟政策は、戦争に至る敵対関係を潜在的に抱え込んでおり、結局は第一次世界大戦」を引き起こした。「その反省から生まれたのが、安全保障という考え方」で、「昨年七月一日の閣議決定は、それを完全に同盟政策に切り替える、ということを意味し」、「これは、法学的な意味でのクーデター、法の破砕といえる」(P.223~224、「非立憲」政権によるクーデターが起きた/石川健治)

安保法制成立までの経過を振り返っておく。
平成26年7月1日:「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」閣議決定
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
平成27年 5月15日:衆議院受理
平成27年 5月19日:衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会受理
平成27年 7月15日:衆議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会可決
平成27年 7月16日:衆議院可決
平成27年 7月16日:参議院受理
平成27年 7月27日:参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会受理
平成27年 9月17日:参議院我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会可決
平成27年 9月19日:参議院可決
平成27年 9月30日:公布(法律第76号、法律第77号)

そして、この詩を想起しなければならない時代に向かっているのだとしたら、いよいよもってその流れを止めなければなるまい。
Als die Nazis die Kommunisten holten, habe ich geschwiegen, ich war ja kein Kommunist.
Als sie die Sozialdemokraten einsperrten, habe ich geschwiegen, ich war ja kein Sozialdemokrat.
Als sie die Gewerkschafter holten, habe ich geschwiegen, ich war ja kein Gewerkschafter.
Als sie mich holten, gab es keinen mehr, der protestieren konnte.
                                Martin Niemöller
(この詩にはさまざまなバージョンがあるが、これは、Martin Niemöller Stiftungによるもの。

はしがき  長谷部恭男
I 安保法制の違憲性
 安保法案はなぜ違憲か  長谷部恭男
 安保法案と“九条の環”  駒村圭吾
 解説 安保法制改定法案の概要とその違憲性  福田護
II 集団的自衛権「限定容認」のまやかし
 違憲の集団的自衛権行使を規定する「安保法案」は、撤回すべきである  宮﨑礼壹
 集団的自衛権「限定行使」の虚構  高見勝利
 〔補論〕 憲法を踏みにじる権力と憲法を守る力の相剋――1928年憲法争議の顛末
 国際法は錦の御旗ではない  最上敏樹
III 「抑止力が高まる」は本当か
 座談会 安保法制は日本の安全保障につながるか  杉田 敦×石田 淳×遠藤 乾
 安保法制で日本は安全になるのか?  柳澤協二
 集団的自衛権の抑止力について  栗崎周平
 立法事実なき安保法制――無責任な政治家、自己責任を負わされる自衛隊  半田滋
IV 何が起こるか、どうすべきか
 「非立憲」政権によるクーデターが起きた  石川健治
 対談 暴走する政治にどう対峙していくか  青井未帆×伊藤 真
あとがき  杉田 敦

長谷部恭男、杉田敦/編
岩波書店

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