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2015年4月10日 (金)

戦争と人間の歴史 人間はなぜ戦争をするのか?

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原題は「War and Our World」、BBCのラジオ放送をベースとしていて1998年刊行、本書は2000年刊行である。
著者は、1960年から1985年までイギリスのサンドハースト陸軍士官学校で戦史を教えているが、自身に軍隊勤務の経験はない。
「職業的軍隊の内で、現在のイギリス軍ほどに高い水準の義務や道徳性を守っている軍隊は、なお一層少ない。」(P.13)との評価を持っているのは、そうした経歴からきているのかもしれないが、根拠は何も示されていない。
スエズ出兵やマルビナス戦争(フォークランド戦争)、ユーゴスラビア紛争参戦、イラクやアフガン参戦などを思い浮かべたとき、この言葉をそのまま信じていいのかどうか。
著者の考え方をひとことで言えば「戦争はなくすことができる」であって、これ自体を否定するものではないのだが、そのプロセスは、どうもしっくりこない。

読みながら気になったところを、以下、並べてみる。
徴兵制が生まれたのは19世紀の国民国家時代で、「国民に対して、すべての適正な男子は成人期の初めに軍事訓練を受けるべそと説得することに成功し」、「その後さらに、訓練を受けた後は、召集された場合には、進んで兵役に戻るべく覚悟を決めておくことが求められるようにな」ったが、「なぜ国民がこのような巨大な軍隊を作り出すことに同意するに至ったのか」(P.37)。
「国民が同意した」ことにより、19世紀にヨーロッパの「軍国化」があり、国民が「兵役の履行をすべての国民が果たすべき名誉ある義務と思」うようになったのだとすれば、そこには、どのようなプロセスによるものなのか。
著者は「さしあたって私たちが言うことができるのは、ともあれ、国民が同意したということです」(P.38)と言うのみで、「なぜ」「どのようなプロセスで」に関する考察は、しないのである。

著者が「希望の声明であって、客観的な真理ではありません」(p.58)としているユネスコのスペイン国内委員会によって召集された人たちによるセビリア声明「暴力に関する声明」(The Seville Statement on Violence , Seville, May 16, 1986)の5項目の最初の文章は、次のとおり。
1 IT IS SCIENTIFICALLY INCORRECT to say that we have inherited a tendency to make war from our animal ancestors.・・・
2 IT IS SCIENTIFICALLY INCORRECT to say that war or any other violent behaviour is genetically programmed into our human nature.・・・
3 IT IS SCIENTIFICALLY INCORRECT to say that in the course of human evolution there has been a selection for aggressive behaviour more than for other kinds of behaviour.・・・
4 IT IS SCIENTIFICALLY INCORRECT to say that humans have a 'violent brain.・・・
5 IT IS SCIENTIFICALLY INCORRECT to say that war is caused by 'instinct' or any single motivation.・・・
否定的な評価を、あえて言うような内容ではないと思う。
また、注でセビリア声明のモデルとされている「人種および人種的偏見に関する宣言」(Declaration on Race and Racial Prejudice, 27 November 1978)の該当文(p.57)の原文は、次のとおり。
Any theory which involves the claim that racial or ethnic groups are inherently superior or inferior, thus implying that some would be entitled to dominate or eliminate others, presumed to be inferior, or which bases value judgments on racial differentiation, has no scientific foundation and is contrary to the moral and ethical principles of humanity.

著者は、クラウゼヴィッツについて「これまでに考え出されたなかでも、最も邪悪な戦争の哲学を唱えはじめた」(P.99)と評価しているが、その根拠は、クラウゼヴィッツの政治哲学が「全体主義国家の政治哲学の基礎になった」からであり、クラウゼヴィッツがヒトラーの遺書に「名前をあげられている唯一の人物だったことは、まさに意義深いこと」(P.101)であるとする。
「レーニンのボルシェビズムとアドルフ・ヒトラーの国家社会主義」を「ダーウィンが唱えた最適社の自然淘汰の理論」の「もっとも恐ろしい結果」(P.141)であるとする著者からすれば、クラウゼヴィッツの政治哲学に、肯定的な評価を与えることができなかったのかもしれない。
問われるべきは政治哲学の中身であって、誰がどう利用したかではないのではないか。

ウィーン体制にしても、「戦争を回避する大陸制度」で「平和の維持を構成国が共通に分かちもつ価値とし、それに主権を従属させようとするもの」(P.102)と評価する。
一面ではそうかもしれないが、人びとの自由を抑圧する体制でもあったわけで、48年革命の母胎にもなった体制であった面が、すっぽり抜けている。

国連憲章について(P.106)。
著者は、「あらゆる軍事的主権が国際連合に従属すること、また国際連合が裁可しないかぎり、自衛をのぞいて、戦争それ自体が非合法」ということを認める立場である。
第51条で個別的又は集団的自衛権を認めているのだが、しかしその前に第1条や第2条の規定を読む限り、例外としての、緊急避難としての個別的又は集団的自衛権である。
しかし、日本での論議では、「個別的又は集団的自衛権は国連憲章が認めている」だけが表に出ていて、基本原則には触れていないし、「国連中心主義」を掲げる日本、そして戦争放棄を規定する憲法を持つ日本がどのように第1条第2条にコミットしていくのかについても、軍事的貢献ありきの展開になっていると思わざるを得ない。

国際連合憲章関係条文。
Article 1
The Purposes of the United Nations are:
1.To maintain international peace and security, and to that end: to take effective collective measures for the prevention and removal of threats to the peace, and for the suppression of acts of aggression or other breaches of the peace, and to bring about by peaceful means, and in conformity with the principles of justice and international law, adjustment or settlement of international disputes or situations which might lead to a breach of the peace;
2.To develop friendly relations among nations based on respect for the principle of equal rights and self-determination of peoples, and to take other appropriate measures to strengthen universal peace;
3.To achieve international co-operation in solving international problems of an economic, social, cultural, or humanitarian character, and in promoting and encouraging respect for human rights and for fundamental freedoms for all without distinction as to race, sex, language, or religion; and
4.To be a centre for harmonizing the actions of nations in the attainment of these common ends.

第1条
国際連合の目的は、次のとおりである。
1.国際の平和及び安全を維持すること。そのために、平和に対する脅威の防止及び除去と侵略行為その他の平和の破壊の鎮圧とのため有効な集団的措置をとること並びに平和を破壊するに至る虞のある国際的の紛争又は事態の調整または解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現すること。
2.人民の同権及び自決の原則の尊重に基礎をおく諸国間の友好関係を発展させること並びに世界平和を強化するために他の適当な措置をとること。
3.経済的、社会的、文化的または人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語または宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
4.これらの共通の目的の達成に当たって諸国の行動を調和するための中心となること。

Article 2
The Organization and its Members, in pursuit of the Purposes stated in Article 1, shall act in accordance with the following Principles.
1.The Organization is based on the principle of the sovereign equality of all its Members.
2.All Members, in order to ensure to all of them the rights and benefits resulting from membership, shall fulfill in good faith the obligations assumed by them in accordance with the present Charter.
3.All Members shall settle their international disputes by peaceful means in such a manner that international peace and security, and justice, are not endangered.
4.All Members shall refrain in their international relations from the threat or use of force against the territorial integrity or political independence of any state, or in any other manner inconsistent with the Purposes of the United Nations.
5.All Members shall give the United Nations every assistance in any action it takes in accordance with the present Charter, and shall refrain from giving assistance to any state against which the United Nations is taking preventive or enforcement action.
6.The Organization shall ensure that states which are not Members of the United Nations act in accordance with these Principles so far as may be necessary for the maintenance of international peace and security.
7.Nothing contained in the present Charter shall authorize the United Nations to intervene in matters which are essentially within the domestic jurisdiction of any state or shall require the Members to submit such matters to settlement under the present Charter; but this principle shall not prejudice the application of enforcement measures under Chapter Vll.

第2条
この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
1.この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている。
2.すべての加盟国は、加盟国の地位から生ずる権利及び利益を加盟国のすべてに保障するために、この憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならない。
3.すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない。
4.すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
5.すべての加盟国は、国際連合がこの憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合の防止行動又は強制行動の対象となっているいかなる国に対しても援助の供与を慎まなければならない。
6.この機構は、国際連合加盟国ではない国が、国際の平和及び安全の維持に必要な限り、これらの原則に従って行動することを確保しなければならない。
7.この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、この原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない。

Article 42
Should the Security Council consider that measures provided for in Article 41 would be inadequate or have proved to be inadequate, it may take such action by air, sea, or land forces as may be necessary to maintain or restore international peace and security. Such action may include demonstrations, blockade, and other operations by air, sea, or land forces of Members of the United Nations.

第42条
安全保障理事会は、第41条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

Article 51
Nothing in the present Charter shall impair the inherent right of individual or collective self-defence if an armed attack occurs against a Member of the United Nations, until the Security Council has taken measures necessary to maintain international peace and security. Measures taken by Members in the exercise of this right of self-defence shall be immediately reported to the Security Council and shall not in any way affect the authority and responsibility of the Security Council under the present Charter to take at any time such action as it deems necessary in order to maintain or restore international peace and security.

第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持または回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

英文
和文
なお、本書で「第52条」となっているのは「第51条」の誤りではないかと思う。

著者による戦争の定義は、「ある集団的な目的のために行われる集団的な殺人」であり、「千変万化な活動」で、「常に形を変え、しばしば予想もできないような変貌を見せる」(P.166)という。
そして、著者によれば、「世界の平和を守るものは、」「最善の平和的な努力にもかかわらず、もし実際に戦争を文明の水平線の彼方に追いやることができるとすれば」
・国際連合が不法な武力に合法な武力をもって立ち向かう意思を持つことによって
・合法の武力を国際連合に貸す国々の政府が、命令を実行することを名誉とする人々を訓練し、給料を払い、装備することを続けるから
(P.170〜)
であるとする。
はじめに書いた「しっくりこない」点につていは、著者の「戦争はなくすことができる」は「合法的な戦争」を前提としたものであって、「ある集団的な目的のために行われる集団的な殺人」に合法性がありうるという考え方だろう。
訳者も「私たちの抱いている戦争観とは180度違う」(P.192)と書いている。
蓋し宣なるかな。

第1章 戦争と我々の世界
第2章 戦争の起源
第3章 戦争と国家
第4章 戦争と個人
第5章 戦争はなくなるだろうか

J.キーガン(John Keegan)/著
井上堯裕/訳
刀水書房

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