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2014年4月 5日 (土)

ドリトル先生航海記

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本書は、新潮社が「新潮モダン・クラシックス」として、阿川佐和子訳の「ウィニー・ザ・プー」とともに2014年3月に刊行された。
訳者は生物学者の福岡伸一氏。
なぜ福岡氏の訳なのかと思ったら、「考える人」2010年秋号(新潮社)の特集が「福岡伸一と歩くドリトル先生のイギリス」であり、その中に「ドリトル先生との出逢い 福岡伸一新訳 『ドリトル先生航海記』抄」があった。
ここでは、雨の中、トミー・スタビンズ少年がドリトル先生と出会う(ぶつかる)画面が訳されていた。

福岡氏は、本書に「do little and think a lot 訳者あとがきにかえて」を記している。
「do little」は「Dolittle」言うまでもなくドリトル先生のことであり、「think a lot」は「Jong Thinkalot」、クモサル島のポプシペテル族につけられたドリトル先生の王名であるが、このあとがきで福岡氏は、生物学者としての思いを込めているのだろう。

井伏訳とのことも、福岡氏自ら書いている。
固有名詞の訳では、日本語に翻訳せずに原文の日本語読みの場合、たとえば井伏訳「ベロス大佐」の原語は「Colonel Bellowes」で、福岡訳では「ベローズ大佐」となっているように、より原文の響きに近づけてある。
登場人物中では、ダブダブやポリネシアは、女性的な話し言葉を使っている。
また、岩波版には収録されなかった挿絵も、本書には挿入されている。
そうした意味では、今回の福岡訳は、井伏訳に対置される訳、改訳といった位置づけではなく、60年前の井伏訳を2014年化したもの、井伏訳で省略されていたり表現の工夫がされたところを原文に近く完訳したものと言えるかもしれない。

例として、「PROLOGUE」(井伏訳は「はじめのことば」、福岡訳は「プロローグ」)と「THE COBBLER’S SON」(井伏訳は「靴屋(くつや)の子ども」、福岡訳は「靴職人の息子」)の出だしの文章をあげておこう。
原文:PROLOGUE
 All that I have written so far about Doctor Dolittle I heard long after it happened from those who had known him – indeed a great deal of it took place brfore I was born.
井伏訳:はじめのことば
 もうせん私(わたし)の書いた「ドリトル先生アフリカゆき」の物語(ものがたり)は、ずっと前に先生を知っていた人たちから、そのころのいろいろな出来事を、あとになって、私(わたし)がきいて書いたお話です。
福岡訳:プロローグ
 私はこれまでにもドリトル先生のなさったことを書き記してきましたが、それは実際にその出来事が起きたずっと後に、先生のことをよく知る者から聞かされた話がほとんどでした。
原文:THE COBBLER’S SON
 My name is Tommy Stubbins, son of Jacob Stubbins, the cobbler of Puddleby-on-the-Marsh; and I was nine and a half years old.  At that time Puddleby was only quite a small town.
井伏訳:靴屋(くつや)の子ども
 私(わたし)の名まえは、トミー・スタビンズといいます。「沼のほとりのパドルビー」という町の靴屋(くつや)、ジェーコブ・スタビンズの子どもでありました。私(わたし)が九歳(さい)か十歳(さい)能古呂のことでしたが、その頃、パドルビーは、ものしずかな小さな町でした。
福岡訳:靴職人の息子
 私の名前はトミー・スタビンズ。水辺の町パドルビーの靴職人ジェイコブ・スタビンズの息子で、その頃の歳は九歳と半年でした。当時のパドルビーはほんとうに小さな町でした。

なお、英語は、1967年版Puffin Books(Jonathan Cape 1923がベースのようだ)、井伏訳は岩波少年文庫1985年10月8日発行第11刷による。
井伏訳の(◯◯)はルビを表す。

今後、時間があれば、原文、井伏訳、福岡訳の対比をしてみたい。

福岡ハカセのブログ

「新潮モダン・クラシックス」は、このあと、角田光代+芳川泰久訳で「失われた時を求めて」、椎名誠訳で「十五少年漂流記」がラインアップされているそうな。

ヒュー・ロフティング/著
福岡伸一/訳
新潮社(新潮モダン・クラシックス)

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