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2014年3月 3日 (月)

仏独共同通史 第一次世界大戦(下)

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本書の成立にあたっては、ペロンヌの大戦歴史博物館の設立がかかわっているとのことである。

日本では、「軍事」をテーマとする博物館(博物館法に規定する博物化以外の施設を含める。)がないわけではないが、テーマにどこか後ろめたさがあるのか、表にはあまり出てこない。
平和憲法を守っていくためにも、武器博物館や戦勝博物館ではない、日本がかかわった戦争を、本書でいうように「異なる大戦の記憶を突き合わせて考察」し「他者の歴史を理解」し、検証する博物館が必要だと思う。
ただし、今の世の中の風潮だと、どこか変な方向に行ってしまいそうだが。

内容で少し気になった部分がある。
本書ではさまざまな論文等が引用されるのだが、出典は脚注で明らかであるものの、具体的にどのような記述であったのかはわからない。
その中で、著者たちの意見に相違した考え方について、次のような書かれ方がされている。
「戦争終結以来、定期的かつ周期的に、「歴史家たち」-というよりはたいていの場合、売名を狙う広告業者たち-が、兵士たちの勇気をまったく認めず、彼らをたんに気が狂った惨めな砲弾の餌食に仕立てようとしてきた。最近の一人がフレデリック・ルソーである。」(97ページ、「第14章 勢力均衡」中の文章)
フレデリック・ルソーという人については、脚注で「La Guerre censurée : Une histoire des combattants européens de 14-18」という著作が紹介されているが、その内容は不明なので、具体的にどのようなことを主張したのかはわからない。
しかし、本文にあるような批判をするのであれば、批判に当たる部分を一部でも引用するほうがいいのではないか。

この点に関しては、「訳者解説」において若干触れられている。
大戦研究の動向については「訳者解説」に譲らなければならないが(ただし、例えばバーバラ・W・タックマン著・山室まりや訳の「八月の砲声」は「最近の研究状況とのギャップは明白」(216ページ)との指摘は覚えておくべきかもしれない。)、現在の大戦研究(1920〜30年代の第一波、1960年代の第二波に続く1990年代以後の「第三波」)における論争の核心にあるのは、「兵士たちはなぜ想像を絶する劣悪な生活条件であった戦場で四年間を耐えることができたのか、という問題」(218ページ)だという。
「兵士たちは「同意」の下に前向きに戦ったからこそ耐えた」(219ページ)する「戦争文化」論が提唱され、本書のスタンスも基本的に「戦争文化」論を採用しているのだという。
これに対して、「兵士たちの選択肢を否定し、軍隊の中での規律と懲罰、憲兵の恐怖、兵士同士の相互監視、という抑圧的装置としての社会を強調し、兵士たちへの「強制」を主張している」(219ページ)批判派が「強制」派と言われ、フレデリック・ルソー氏は「強制」派に属するということのようだ。
そのうえで「本書は、反乱兵士の証言を掘り起こした「強制」派の業績と、その証言への「同意」派による史料批判を経た次のステージの通史」(220ページ)と、本書を評価している。
なお、フレデリック・ルソー氏は、モンペリエ第3大学教授(現代史)。同大学の人文社会科学学際研究センター所長のようだ。
いずれにしても、「強制」派の考え方を知っているということが本書の前提としてあるのであれば、「強制」派の考え方を知って行く必要があるかもしれない。
これは、日本における戦史研究あるいは戦史をふまえた、日本の政治のありようにもかかわってくると考えられる課題だろうから。

朝日新聞書評
日本経済新聞評

 第11章 戦場の暴力
 第12章 民間人に対する暴力
第4部 なぜかくも長期戦になったのか?
 第13章 神話となった短期戦
 第14章 勢力均衡
 第15章 講和の試み
 第5部 やぶれた均衡
 第16章 ドイツ優位への均衡解消
 第17章 勝利と講和
 第18章 戦後
むすびにかえて
訳者解説
原註・索引・年表

ジャン=ジャック・ベッケール(Jean-Jacques Becker)、ゲルト・クルマイヒ(Gerd Krumeich)/著
剣持久木、西山暁義/訳
岩波書店

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